『日本の門松』は、すべて吟味した本格材料を用いて作成しています。それぞれの材料は専門の生産者や職人の分業により作られていきます。
『日本の門松』に用いる松は兵庫県丹波地方の新鮮な黒若松です。黒松は雄松とも呼ばれ、枝を真直ぐに伸ばし深い翠色の針葉が密生する力強い松です。
「日本の門松 関西」では、長い太枝松を活け込んでいきます。松の素材としての名称も「門松」と呼ばれ、門松の大きさ(3尺〜8尺以上まで)に応じて、長さ約1mほどの枝若松から、長さ2m以上の大枝松までを使い分けます。ほとんどが2年枝以上のしっかり成熟した大枝を用いるので、できあがる門松も重厚なイメージになります。
「日本の門松 関西」の大枝松と花梅
素材の名称としては「枝若松」と呼ばれ、生け花でも用いられているものです。松は1年に一節だけ枝を伸ばしますが、その当年枝(とうねんし:その年の春から秋にかけて伸びた若い枝)の部分が成熟する初冬に切り取って用います。若い当年枝のみを用いて制作するので、できあがる門松も瑞々しいイメージです。
クロマツ(Pinus thunbergii)は植物学上では裸子植物マツ科の常緑の植物で、日本国内では関東以西の海岸地方に多く自生しています。青々とした針葉が美しく、黒っぽい樹皮とどっしりとした樹形から黒松、雄松(オマツ、オンマツ)と呼ばれます。白砂青松の名勝地の松と言えばこのクロマツのことで、多くは海岸の防風林として人々が昔から植樹をしてきたものです。高級食材である松露はこのクロマツ林に多く見られます。ちなみに雄松に対して雌松(メマツ)というのはアカマツ(Pinus densiflora)のことで、樹皮が赤っぽく、針葉はクロマツに比べて疎らで樹形も優しいイメージです。痩せた内陸の里山に自生し、松茸のとれる松林はこのアカマツ林です。
『日本の門松』の竹は、京都府嵯峨野産の真竹(マダケ)。
青々とした竹は、竹林の中から2〜3年生の充実したものを選りすぐって切り出したものを用いています。冬の寒さにあたった竹は節桿が固く引き締まり乾いて優れた材になるのです。竹林の中では、今年タケノコから成長した竹も一見すると青々と良いものに見えますが、桿が充実しておらず水分も多いため、加工して時間がたつと歪んだり傷みやすかったりします。逆に4年生以上の竹は、青竹の色味がくすんでくるので門松の竹としては見た目がよくありません。
原竹を切り出す
竹林の中の数ある竹から原竹を切り出すのは、専門の原竹切りの職人が行います。門松の素材として必要な青竹は2〜3年生の充実した個体。竹は樹木のように年々太るわけではないので、必要な太さ、生年のものをオーダーに応じて竹林から選りすぐり、専用の鋸で切り出して行くのは、原竹切りの職人ならではの業です。
竹を研ぐ
ここからは竹屋の加工職人の仕事です。
原竹にはロウ質がついたままです。竹には桿の表面に白っぽいロウ質の粉がついています。原竹を水につけて専用の道具で磨きながらロウ質の粉を落としていきます。この過程を終えて初めて表面も艶やかで瑞々しい「青竹」になるのです。この作業を「竹を研ぐ」といいます。この後、日陰で十分に乾かします。気温も下がり空気が乾燥する11月下旬以降が作業の適期となります。
原竹を切り出す
この作業も竹屋の加工職人の仕事です。
十分に乾いた竹をいよいよ門松用に加工します。門松で用いる竹は、青竹を斜めに断つ「削ぎ(そぎ)」と、節で水平に断つ「寸胴」があります。『日本の門松』では主に「削ぎ」を用いています。門松の尺(大きさ)にあわせて、それぞれの長さに切っていきます。「削ぎ」の場合は斜めに切った後、先端の尖った部分を切り戻します。
青竹を門松用に組み棕櫚縄(しゅろなわ)でとめます。
マダケ(Phyllostachys bambusoides)は被子植物イネ科マダケ属の植物で、日本国内では北海道以南に自生しています。竹の成長は、樹木の成長とはまったく異なります。樹木が幹を毎年太らせてゆく(2次肥大成長をする)のに対し、竹の場合は今年生まれた筍がわずか3ヶ月で一気に高さ十数メートルの成竹にまで成長を遂げる節桿成長(一つ一つの節が伸びてゆく成長)をします。成竹になってからは上昇成長を止め、毎年1回春に葉の更新を行います(竹秋)。その後数年で地上部の竹は枯れてしまいます。しかし、同じ地下茎からは毎年次々と新しい筍をつけ竹が伸長するのです。1つの真竹の寿命は120年と言われています。日本最古の物語「竹取物語」のかぐや姫はこの竹の成長の不思議になぞらえた伝説であり、古来より竹には人智を超えた力が宿っていると考えられていたのでしょう。次々と新しい筍をだす生命力にも、昔の人々はあやかろうとしたことでしょう。
『日本の門松』の菰(こも)は、地元灘五郷(なだごごう)の菰酒一斗樽をつつむ菰を用いています。菰酒用の菰は、一般の菰より稲わらを多く打ち込んでいるため、しっとりと厚みがあります。
菰酒用の菰は表に打つ酒の銘印が樽本体に裏写りしないように、稲わらを多めに打ち込みます。当然に目方(重さ)も大きくなります。『日本の門松』がしっとりとした重みを感じるのはそのためです。ただし、稲わらを多く打てば良いというものではなく、打ち込みすぎる硬くなり、樽に菰を巻く荷造りの作業がしにくくなるので、程よい厚みが求められるのです。
『日本の門松』の菰(こも)は、菰酒の一斗樽用。
『日本の門松』の菰(こも)の材料となる藁(わら)は山田錦の稲わらを打ち込んだもの。酒米として最も適しているといわれる山田錦、その最上級品の産地(特A地区)として有名なのが兵庫県西部の吉川町。酒米を収穫したあとの稲わらを酒樽の菰に使います。山田錦は、桿(茎の部分)が普通の稲に比べて長く、130cm前後あります。そのため大きい菰の素材としても最適なのです。
『日本の門松』では、奈良県吉野産の苔梅をあしらっています。苔木は、昔から盆栽や生け花などでも珍重されてきました。長い年月を感じさせることから代々の繁栄を願う気持ちが自然と湧いてきます。
苔梅についている苔は「ウメノキゴケ[梅の木苔](Parmotrema tinctorum)」という地衣類(キノコのような菌類に類似)で、空気のきれいな場所にのみ生育します。そのため都市部ではまず見ることはできません。吉野の清々しい空気をも門松に添えて、新しい年をお迎えいただければと思います。
『日本の門松』にあしらう苔梅は、奈良県吉野産
『日本の門松』では「関西」「彩り」に葉牡丹を活けています。門松に葉牡丹を活ける地方は、関西を中心として中部、北陸地方までの広がっており、縁起のよい紅白の品種が江戸時代から慶ばれています。
「日本の門松 彩り」「日本の門松 関西」に活け込んでいます。
「日本の門松 関西」に彩りを添える南天。南天は古くから難(なん)を転(てん)ずる縁起物として慶ばれてきました。赤い実が新春の空に映える美しい植物。
南天は関西以西に自生し、学名 Nandina domestica にもそのままナンテンの名がついています。
『日本の門松』の「関西」には縁起のよい南天をあしらっています。
柳は、春一番に芽を吹き、強い生命力もあることからも縁起のよい木とされています。その柳を金銀に染め上げて、門松に華やぎを添えます。
柳は春一番に芽を吹く縁起のよい木。金銀の彩りを添えて。
「日本の門松 関西」は仕上げにしめ縄をかけます。年神様(としがみさま)の依り代(よりしろ)である門松が、清浄なものであることを示すのです。このしめ飾りもすべて自然素材で作られた手作りで、橙、裏白、稲穂、御幣などの縁起ものを金の水引で締めています。
『日本の門松』の「関西」は最後にしめ縄でしめくくります。